気のむくまま

日々のこと、いつかのこと

台風の夜のいけない遊び

台風の記憶はいけない遊びと繋がってる。

台風が来ると何日も閉じ込められるような小さな島で育った。地すべりに巻き込まれた同級生がいたり、家の屋根が飛んだ親戚もいる。そういう島だ。

台風が来ると冷凍庫のものを出す。停電もお決まりなので溶けて使い物にならなくなる前に消費する。父は仕事場や趣味の船を海からあげるやら、母方の実家を見に行ったりと家にはいないので当てに出来ない。

あの年、台風が来て風が外で渦巻く夜中、母と私はろうそくの明かりの中で遊んだ。花札を持ってきて賭けをする。賭けの対象はミカン1房。傍らにはいつでも避難できるようにまとめた荷物とすやすや眠る幼い兄弟。

賭けに勝てた事はない。食べもしないミカンが次々と母の皿に積み上げられる。「あんたって本当に弱いのね」自慢げに言うその後から「さっきより風が強くなってきたわね」外の気配は気にしてる。私はあの頃花札を覚えた。

いよいよとなったら、二人で幼い兄弟と荷物を持って避難所に移動するからね。あんたは荷物を背負って一番大きい妹の手をしっかり繋いで離さずに行くのよ、私は幼子をおんぶして荷物を持つと母から言われていた。最初から役割分担は決まってた。二人で外を気にしながらろうそくの下、延々と花札をする。不思議と眠くはなかった。

翌年の台風、相変わらず母と花札をしていた夜中。1杯だけねと母がお酒を持ってきた。否、飲んだら避難出来んやんと言うと、1杯で歩けなくなったりしないわよと持ってきたグラスは、小さな小さなグラスだった。お酒の名前は憶えていないがミントのリキュールだと思う。母はミントが好きだった。私にも飲むように母は言った。口封じ、共犯者は裏切れないのよと母はいたずらっ子ぽい表情で言った。はじめてお酒に口をつけたのも台風の夜だった。