気のむくまま

日々のこと、いつかのこと

害がなければ都合良く考えとく

学生の頃、マディソンバッグが流行った。

修学旅行にクラスのほとんどがマディソンバッグを持っていくという。私も母に話してはみたが、やはり買っては貰えなかった。1度しか使わない物にお金をかける事と、流行りものだからと飛びつく事を、母は格好悪いと思ってた気がする。そんな気はしてたし仕方ないなとわりとあっさり諦めた私に、クラスメートの1人が言った。

「買って貰えないの?かわいそうに。みんな持っていくのにね」

バッグを買って貰えない事は不思議に何とも思わなかった。けれどかわいそうと言われた事には腹が立った。

「大好きな叔母が大事にしてるバッグを譲って貰うからいいんだ。皆同じバックで、ピカピカの新品を持ってる歩いてる集団って、田舎者ですって札をぶら下げて歩いてるようなもんじゃん」

叔母からバッグを貰ったのは本当だけどただのお下がりだったし、負け惜しみで口から出た言葉だった。

なのに、一瞬でその場の空気が変わった。

「もしかして田舎者だって笑われる?」って、今まで勝ち誇ってた子達がひそひそと話しはじめて笑ってしまった。同じ土地で生まれ育ってる以上、みんな田舎者なのに。

物は考えようなんだな。周囲には申し訳ないけど、考え方を変えるきっかけになって私には良かった気がする。バッグを持ってないという現実は変わっていない。けれど考え方が変わっただけで私の気持ちはがらりと変わった。

実害がなければ、自分に都合のいいように考えた方がいいなと思うようになった。その方がコンプレックスを増やさずに済む。

今考えると、相当性格悪いなとも思う。心の中で思っていればいい事をわざわざ口にして、せっかく楽しい気分でいたクラスメートを嫌な気分にさせたわけで、周りが楽しんでないと、そうさせたのは自分と考えると、自分も楽しくなくなっている。

その場でやり返したら、その時は少しぐらいすっとしても、悪い印象は残ってしまう。誰が正しいとか誰が先に言い出したとか、そんなの関係ない。ただ、嫌な人って感じが残ってしまう。そういう事で人の記憶に残りたくない。悪目立ちしたくない。

あの時、母がバッグを買ってくれなくてよかったかもしれない。今はそう思う。