絶望を味わった後、母を説得しまくって金の卵生活がはじまった。
絶望の理由は↓
引率の人に連れられて島を離れた。
不安よりドキドキの方が強かった。この先何が待ってるんだろう。島から飛行機に乗った。飛行機に乗るのは初めてではないけれど、不安と期待が入り混じった気持ちで乗ると、今までとは景色が違う気がした。
飛行機を降りると電車に乗った。育った島には電車がない。テレビで見る電車よりさびれて見えて少し不安が強くなった。都会に行くんだという気持ちが失せて、違う土地の田舎に行くんだろうなと現実に戻された気がした。1人で電車に乗ったりするんだろうか。雪は見れるんだろうか。寒かったりするんだろうか。耐えられるだろうか。
金の卵生活は一週間ごとに変わる。朝、4時半に飛び起きると洗面所までダッシュで走り、顔を洗って部屋にまたダッシュで戻り、お布団を片付け身支度を整え、再びダッシュで仕事場に向かう。
朝食は8時、それまでは何も食べずに働く。朝食を取り少し休憩すると仕事に戻る。1時半まで仕事をしてお昼ご飯になる。お昼ご飯を食べると、支度を整え学校へ行く。次の週は朝から学校へ行き、1時半に朝仕事をしていた班と交代して仕事に入る。
金の卵になって「自分の事だけやればいいってすごく楽ー」と思った。同年代の人が集まる寮生活はいろんな人がいて楽しかった。喧嘩する人、家族が恋しいと泣く人、世話好きな人、文句ばかり言ってる人。いろんな方言が面白くて聞いて真似したりしてた。今もあちこちの方言が混ざっている気がする時がある。
家から仕送りを貰っている人もいて、逆に送る人もいた。私はたまにだけど、妹たちに小遣いを送ってていつもお金がなかった。給料日前になると、同じような人が集まってお金を出し合い、食べ物を買って分け合って食べたりした。
教えて貰う事も多かった。私が生まれた島には電車がなくて、乗り方が解らない。学校の制服のネクタイの結び方、お化粧の仕方、廊下で先輩とすれ違う時の挨拶の仕方。新しい事ってワクワクして好き。
街に出て、制服を着て歩く高校生を見ると羨ましいなと思った事もあった。家から通ってるのよね、お弁当とかも作ってもらうのよねと少し淋しい気持ちになった。同時に自分で何もかも出来てる事にほんの少し自信がついた気もした。
「インド洋をひとまたぎ地中海をひとっとび」と甲斐バンドは魔女の季節で歌ったけど、あの気分だったな。南の小さな島から日本の真ん中までひとっとび。