町に1軒しかない映画館の前を通るたび、一枚のポスターが気になって仕方なかった。
「決して1人では見ないでください」
そう書かれていると、見たくて仕方ない。どうして1人で見ちゃいけないんだろう。1人で見たらどうなるんだろう。
大人が一緒じゃなきゃ映画が観れない年齢だったから、周囲に頼んでみた。母、祖母、叔母。誰も首を縦に振ってくれなかった。1人で入る事も考えたけど、小さな町なのでバレる可能性が高い。仕方がなく諦めた。見れなかったという記憶と共に、その映画の事が記憶に残った。
1人暮らしを始めた時、深夜放送にそのタイトルを見つけた時は小躍りした。やっと観れる。熱心に探していたわけじゃない。でも忘れたわけでもない。まだレンタルビデオすらない時代で、今みたいにいつでも映画が観られる時代じゃなかった。
育った街から遠く離れて1人で夜中に観るホラー。見事にうなされた。痛いシーンが夢に出てきた。朝、目覚めた時、1人で笑ってしまった。作りものだと解ってるのに、見たくてたまらなかった映画なのに、なんでうなされてるねんと自分に突っ込んだ。
不思議なのはうなされたのに、大好きな映画の1つになったこと。その後も何度か観る機会があったけど、うなされたのは最初の1回だけだった。
あの時、一緒に映画館に行ってくれる人がいなくてよかったのかもしれない。すぐに観ていたら、この映画の事は忘れたかもしれない。