気のむくまま

思うこと

下宿屋の思い出

ずいぶん昔のことだけど、下宿屋に数か月住んでいたことがある。

こちらに来てすぐの頃で住むところが必要だったのだけど、お金がない、保証人を頼める人がいない。けれど住むところがないと仕事に応募できない。どうしようかなと思っていたら、友人の同僚という人が「私が住んでる所、保証人も保証金もいらないし、家賃も安いよ。お風呂はないけどね」と言った。すぐ紹介して貰った。

2階の角部屋を借りた。というかそこしか開いてなかった。隙間があるらしく、風の強い日は窓がガタガタなって寒かった。お風呂はないので近所の銭湯へ行った。洗濯機を置く場所は共同で、他の住人の洗濯機がずらーと並んでた。トイレも共同で5つ並んでた。トイレットペーパーをもっていって、終わると持って帰る。男女別ではないので、トイレで男性と鉢合わせすると、最初は気まずかった。

玄関には1足しか入らない靴箱が1つ割り当てられるだけなので、靴も部屋まで持っていくことになる。これは地味に面倒だった。

年齢は10代後半から20代後半ぐらいの男女。廊下で会う度に挨拶してると、なんとなく一言、二言、話すようになった。鍋パーティーするけど来ない?とお誘いがかかった。私は人と食事するのが少し苦手。好き嫌いがあるし、取ってあげたり貰ったりってのも気を使う。そうは言っても最初から断るのもなと思って参加した。

主催者が一番年上の方で、家族でもないおっさん(彼は20代後半だった)と同じ鍋に橋を入れるのは嫌でしょーと、取り分けたり話を振ったりと気を使ってくれた。参加してた人達も、笑わせてくれたり和ませてくれたりした。男性も女性もいたけれど、誰も恋バナはしなくて、好きなものの話とか今はまってるものの話とかテレビの話とかをしてた。友達の間でもよく彼氏は?とか聞かれててうんざりしてたので、聞かれないのは有難かった。

会が終わる頃、参加者が「これ材料費の足しにして」と封筒を差し出し、他の人達も「お兄さん、お酒好きだからこれ飲んで」とか「買いすぎたから使って」と言って生活用品を渡す人もいた。そういうのもいいなーと思った。こんなに貰ったら逆に貰いすぎだよと主催者が遠慮しても、集まるのに部屋を提供してくれてるだけでも、十分負担でしょと笑ってた。

銭湯に行くと同じ下宿のお姉さんに会ったりして、お風呂上りに一緒にコーヒー牛乳を飲んだりした。そのお姉さんは奈良の出身だそうで、「主催者のお兄さんは四国の人だよ。笑わせてくれた人はそれぞれ大阪がと兵庫、田舎から送られてきた物をおすそ分けで貰ったりするから、そういうのは知ってるけど、恋愛とか仕事の話はしない。休みの日に仕事の話はうんざりだし、恋愛は上手くいってる時はいいけど、そうじゃない時もあるから。それが暗黙のルールみたいになってるよ」と教えてくれた。そのお姉さんとは洋服や食べ物の話をよくした。他の人とは旅行の話なんかもした。

部屋があまりにも寒かったから数か月しかいなかったけど、すきま風がなかったらもっといただろうな。大阪にきてすぐだったし、いろんな話を聞かせて貰ってる間に、着たい洋服や行ってみたい場所や食べてみたい食べ物が出来たりして、給料は安いけどこつこつ貯めよう。貯めたらそのうちの1割は楽しみに使おうとか、計画を立てるのも楽しかったな。